11.  「レアリー、昨日のダンスパーティのあなた、とっても綺麗だったわ!」

昼休みに図書室でぼけっとしていると、ハーマイオニーに話しかけられる。

「本当に?ありがとう。ハーマイオニーも可愛かったわ!それに相手があのクラムだっただなんて!」
「驚いたでしょ?」
「とてもね。ここのところ、みんなクラムの相手は誰なのかって噂してたみたいだから」

ちょっと得意げに笑うハーマイオニーに別れを告げ、借りた本を抱えて図書室を後にした。







その後、ドラコは人前では今までどおり"レアリー"として私と接した。
私はホグワーツに居る間はそれを望んだし、ドラコもそれをわかってくれていたみたいだ。







腕の印が焼けるように痛んだ数日後、セドリックの死とハリーの生還とあの方の復活を知った。


ルシウスから来なくていいとの通達があったため、
私は復活の儀には行かなかったが、腕の痛みでそれを理解した。

それから日に日に見えなかった腕の印が濃くなっていったので、
これはマズイ、と夏休み休暇に入るとすぐにマルフォイ邸を訪れた。







「ねぇルシウス、私、殺されるの?」

温かな昼下がり、紅茶をすすりながら、ぼんやりと尋ねると
「物騒なことを!」とルシウスとドラコ、そしてナルシッサが驚いて私を見た。

「いや、処罰はおそらく与えられない」
「え?それ、こないだ聞いてきたの?」
「あぁ。あの方もその術についてご理解を示されていた。」

よかった、と胸を撫で下ろすナルシッサ。

「それよりも、だ。不死鳥の騎士団が再結成されたらしい」


不死鳥の騎士団…
両親を殺し、師匠であるベラトリックスをアズカバン送りにした…

私はティーカップをソーサーの上に静かに置いた。





14年前――――

死喰人だった両親は、騎士団と戦闘の末死んだ。
両親のことはあまり好いてはいなかったが、それでもやはり、肉親を殺されたとなると悲しかった。


そんな母の友人だったベラトリックスは昔から私に優しく、私も昔から彼女が大好きだった。
どこの純血の息子と結婚させるかばかり考えていた母に代わり、
ベラトリックスは私の師となり、ありったけの魔術を叩き込んだのだ。


投獄2日前、最後に開発中の"不老不死の術"を教えたベラトリックスは、私をナルシッサに預けた。
(無論、この術が、現在私が自らにかけ続けている術なのであるが)





"ベラ、どこへ行くの?"
"もうお前にアタシは必要ないんだよ。教えることは教えちまったからね"
"嫌だわ!だってベラは私のママだもの!"
"あんたのママは私じゃないよ"
"でも…でも、ベラはとても大切なの、どこにもいかないで"

涙ながらに懇願する私の頭をくしゃくしゃ、と撫でたベラトリックスは
"絶対帰ってくるから待っときな"と言い残した翌日、アズカバンに投獄されたのだった。









「不死鳥の騎士団?そんなものは潰してやるわ。今に見てなさい。」

カシャリ、とスプーンが音を立ててソーサーから堕ちる。


不敵な笑みを浮かべると、再び印が濃くなった。
世間では復活は嘘だとされているけど、この痛みは本物。




―――――あの方が帰ってきた。
―――――ベラの帰りも、そう遠くはない。











休みも最終日となった日、私はドラコの部屋にいた。

「もうすぐ学校ね」
「そうだな」

興味なさげにドラコが答える。

「私、たぶんそう長くはホグワーツにいられそうにないわ」

ドラコがチラッと私を見る

「…そうか」
「うん。」


実際、私の体は限界を訴えていた。
体は軋み、時折激痛は走るし、腕と腰の模様ははっきりと存在を示している。
気を緩めると瞳の色さえ赤みがかってしまうという有様だ。


不意にドラコが立ち上がり、ビロードの生地で包まれた箱を取り出す。


「これ、やるよ」


開けると中には指輪が入っていた。


「右手だからな、右手。」


ピンクに頬を染め、指輪をはめるドラコ。


「ねぇ、あたしまだ返事してないわよ」
「今更嫌いとでも言うのか?」
「まさか。あたし…あたし、ドラコのこと、とっても好きだし大切よ。」


ドラコが近づいてくる。
右頬に手を添えて、ゆっくり、ゆっくり、口づけをする。


「私、4度目の18歳を迎えているけど、それでもいいの?」
「その方が良い。だって、年が近くなるからな」


私はクスリ、と笑って、太陽光に指輪をかざした。
キラキラと輝く指輪に、私もドラコも頬を緩める。



扉の外ではナルシッサが微笑み、そっとその場を去ったのだった。