12.
「ねぇ、あのピンクの人、センスってものを全く兼ね備えていないの?」
魔法省から派遣されてきたドローレス・アンブリッジには辟易したが、
私はドラコとの残り少ない時間を大切にしようと勤めた。
談話室でのおしゃべりが何よりも好きだった。
一度OWLを受けたことがある私は、ドラコにだいたいどのあたりが出るかを教えることができたし、
自分自身もテストに対する切迫感はあまり感じずにいた。
刻々と最後の日が近づいてくるのは体が理解していた。
自分で煎じた痛み止めを毎食後飲む羽目になり、
どうもこの薬の味が苦手な私は、毎回吐きそうになりながら飲み込むのだった。
「おはようドラコ」
「おはよう。朝食を食べに行こうか」
大きなあくびをしながら大広間に向かう。
廊下でせかせか歩くアンブリッジとすれ違い、
(あの体型でもあんなに早く歩けるのね)
とかのんきなことを思いながら、大広間へと入る。
「おはようレアリー!」
「おはようハーマイオニー。そんなに急いでどうかしたの?」
「ちょっと魔法薬学について聞きたいことがあるのだけど…」
ほら、今日小テストがあるじゃない?と、お願いするハーマイオニー
隣でドラコがイライラし始めたため、私はドラコに先に行ってて、と言い
グリフィンドールのテーブルへ向かう。
「この間の実験のところなんだけど…ちょっと待ってちょうだい…」
「あぁ、右にまぜるか左にまぜるかがどうして重要なのか、ってやつ?」
「そうそう、それよ!スネイプったら声のトーンが低くて…あ、あったあった。」
どれどれ、とテキストに目を通す。
「右に2回、左に5回、10秒待って右に4回までは書き留めたのだけど…」
「大変だ!!!!」
ハーマイオニーの声を遮って、グリフィンドール生の子が走ってくる
「集団脱獄だ!!!!!!!」
みんながワッと新聞にたかる。
チラリ、と新聞の大見出しに目をやると"ベラトリックス・レストレンジ"という名前。
「ちょ、ちょっと見せて!」
ハーマイオニーが新聞を横取りする。
「あぁ、なんてこと!!」
驚嘆と絶望の表情を浮かべるハーマイオニー。
「ベラトリックス・レストレンジが…脱…獄……」
全身に血が物凄い速さで駆け巡る。
まるで稲妻にうたれたかのように全身がビリビリとしたし、
立ちすくむ、とはこういうことなのだ、と理解した。
(ベラが帰ってきた!)
(14年も待った人が帰ってきたのよ!)
「…帰ってきた…ふはは…ふははははは」
「レアリー?どうしたの?」
「ごめん、ハーマイオニー、あたし、行かなくちゃ!」
ドン、と彼女を押し退けて私は走り出す。
それを見たドラコも私を追いかけ走り出す。
途中でハリーにぶつかった。
「おはようレアリー…?」
「ハリーまたどこかでね!!」
走っている途中でズキズキと頭が痛み、猛烈な吐き気を催してそのままトイレに駆け込む。
目眩をおこし、ふらふらと洗面台まで近づいていき、鏡を覗き込むと
薄紫色の瞳に、銀髪の・が立っていた。
「やだ…何これどうしよう…」
「…」
ふ、と顔をあげるとドラコが息を切らして立っていた。
「ドラコ、私、タイムリミットなんだわ」
「レアリー?レアリー??大丈夫なの………え…??!」
私を追いかけて走ってきたハーマイオニーとハリー、そしてロンは絶句する。
「・…?」
「グレンジャー!先生を呼べ!大変だ!」
「え、えぇ?!」
「あぁ、もう!!」
強くハーマイオニーに言いつけるドラコ。
立ちすくむハーマイオニーのかわりにロンが飛び出して行った。
ローブを脱ぎ棄てる私に向けて、ドラコとハーマイオニー、そしてハリーが杖を向ける。
"もし学校でタイムリミットが訪れたら"
"その時は何も知らないふりをして、私に杖を向けること"
ドラコの脳内に、の言葉がこだまする。
「何事ですか…あ、あなたは…・!!!」
騒ぎを聞き付けてマクゴナガル先生が飛んできた。
私は杖を一振りし、制服から黒いワンピース姿にと変わる。
「その…腕…」
ハリーが私の腕の印を見て歯ぎしりをした。
「五年間、よく気付かなかったわね。レアリー・ベッカーは良いお友達だった?」
「あなた…そんな……」
ハーマイオニーがこっちを見て愕然としている
「気付いておったよ」
静かに現れたダンブルドアが言う。
「君が帽子の記憶を改ざんしたことも、全て知っておる。全てじゃ。」
半月眼鏡の奥の瞳が笑っている。
あぁ、この瞳が嫌い。大嫌い。
「そこをどいて。私はもう行かなきゃならないわ。」
「、お前さんがベラトリックスに会いたいのはよぅ分かる。」
ダンブルドアは杖を取りだしながら私に近づいてくる。
「じゃがのぅ、わしは校長として君を行かせる訳にはいかないんじゃよ」
「ベラに会うまで、私は絶対に死ねないの」
ダッと走り出した私を追いかける6人。
「エクスペリアームス!」
ハリーが攻撃をしかけてくる
「芸がないわねぇ、武装解除ばかりじゃない」
ひょいっとそれを避け、バルコニーに飛び出す。
「そこまでじゃよ、」
私の後ろに道は続いていなかった。
ドラコがヒクリ、と眉毛を動かす。
「私はベラに会うまでは死なない、と言ったでしょう?ダンブルドア」
ニィ、と笑うと私は黒い煙となって、バルコニーから空へと消えた。
「レアリー…」
悲しげにつぶやくドラコの肩に手を乗せ、空を見上げるダンブルドア。
「友人を失うとは、悲しいものじゃの」
「離せ」
ドラコはダンブルドアの手を振り切り、一人談話室へと向かったのだった。
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