13. 


バタン、と自室のドアを音を立てて閉めるドラコ。
"騒動"で人のいない談話室と寮は、やけに静かで、
ドラコは自分の鼓動の音の煩さに、ベッドのヘリを蹴り飛ばした。


"もし学校でタイムリミットが訪れたら"
"その時は何も知らないふりをして、私に杖を向けること"


これはとの約束だった。
もし自分がに杖を向けなければ、入学当時から一緒に居た僕は真っ先に疑われる。
それを避けたい、と願うの気持ちはわかるし、僕は彼女の言うとおりにした。



「なんで…彼女は死喰人なんだ…」



僕は彼女に杖を向けたくはなかったし、できることなら彼女と一緒に居たかった
ダンスパーティーで彼女の実態に気付いた時から、僕はこの時を覚悟していたはずなのに
結局は"杖を向ける覚悟"も"彼女の生業を受け入れる覚悟"もできていなかったのだ


そして自分本位にも、彼女の生業を、行き様を否定するような台詞を呟く
そんな自分が腹立たしくて、無力で、ドラコは一人、膝を抱えた。












「シシー!」
?!」

ポンッ、とマルフォイ邸に現れた私に驚くナルシッサ。

「あなた学校は?!それにその格好」
「シシー、タイムリミットよ」

息を切らす私をナルシッサはソファに座らせ、紅茶を差し出す

「学校で脱獄の記事を読んだわ。そしたらもう、歯止めが効かなくて…
でももう死んでも構わないわ、ベラに会えるなら、それならいいの。
きっとベラはここにくるだろうと思って、それで、来たの。」
、あなた体は…」
「わからないわ。でもまだ、まだ大丈夫。」
「まだってあなた、そんな言い方…」
「私のことは良いの!私はベラに会えればそれでいいのよシシー!」

息を荒げて立ち上がると、ゴツン、と鈍い痛みが頭に走った

「痛い!」
「ベ・ラ・ト・リッ・ク・ス・様!何度言えばわかるのかねぇ、このボンクラは」
「え…?」

くるり、と振り返ると、困った笑いを浮かべるルシウスと、
フン、と鼻息荒く仁王立ちをしているベラトリックスがいた。

「あ…ベラ…ベラなのね…うわぁ…会いたかった…生きててよかった…ベラ…ベラァ…!!!」
「だから様をつけろって!…それにしてもまぁ、大きくなったわねぇ」

後から後からこみあげてくる涙を抑えきれず、しゃくりあげて泣く私を
少し小馬鹿にしたベラトリックスだったが、その両手は優しくを包み込んでいた。

「ほら、顔をあげてごらん」

涙と鼻水でぐちゃぐちゃにいなった私は、勢いよく顔を上げる

「泣き顔もあんたの母さんにそっくり!親子だねぇ」


そして私の頭を撫でた彼女だったが、
緩んだ表情は一変し、険しい顔で私の腕を掴みあげた


「あんた!これ…」


ベラは私の腕に刻まれた"印"を見て眉間にしわを寄せる


「意味は、わかっているんだろうね」
「えぇ、わかっているわ、闇の帝王に仕えるという印よ」


パシンッと乾いた音が響き、私の左頬はじんじんと痛む
ベラトリックスは息を荒げて右手をギュッと握った。


「お前はわかっていない!この印が何を意味するか!絶対服従が何なのか!」
「ベラ、私はあなたが全てだわ。」
「それとこれとは関係ないね!」
「いいえ、あるのよ」

私はまっすぐベラの目を見つめた。
彼女の瞳はいつになく揺らいでいて、動揺を隠しきれていない。


「私の全てはベラで、ベラの全ては闇の帝王。つまり間接的に私が絶対的に従うのは、闇の帝王なの。
浅はかかもしれないけれど、それでも、私は、ベラを、ずっと待っていたの。
あの方の元にいたら、きっとベラの情報を一番早く得られると、そう思ったの。」


「ベラ、私、あなたが帰ってきてくれて嬉しいの。私の母さんは、あなただわ。」

ぎゅ、とベラの手を握ると、少しだけ、ベラの体の震えが伝わる。


「あたしはね…」

ベラは私の手をぎゅ、と握り返す。

「あいつと…あんたの"本当の"母さんと約束したんだよ…あんただけは印を刻ませないってね」






"ベラ、私、明日例の任務があるわ。もしかしたら、死ぬかも"
"縁起の悪いこと言わないでよね"
"ねぇベラ、もし、私が死んだら、を頼むわ。"
"具体的なお願いしないでよ、気味が悪いったらありゃしない!"
"こんなこと、親友のあなた以外には頼めないわよ"
"…わかってるって"
"それとね、あの子にだけは、この印は――…"
"任せときな、あのお方の部下は私だけで十分なんだからね"







「それなのに…約束守れなかったじゃないか…」
「ベラ…」
「あいつから頼まれた唯一の約束だったのに…!」
「ねぇ、ベラ」

ナルシッサとルシウスが後ろで心配そうに見守っている。

「あなたが戻ってきてくれただけで、それだけでいいのよ、私。
絶対無理しないし、ベラの足手まといにもならないようにするから…
だから、私を見捨てないで。私、また、ベラと暮らしたい。」
「あんたって子は本当に、物好きだわ。脱獄したての女と、暮らしたい、だなんて!」

ベラはおいおいと泣き崩れ、私はベラを抱きしめた。
こんなに弱い姿のベラを見るのは初めてで、
でも、私のことでこんなに泣いてくれる彼女を見て、ちょっとだけ嬉しい気持ちになったのだった。








1.30 shelly