2.  「スリザリン!!!!!!!」


ドラコの頭に帽子が触れるか触れないかのところで、その老いぼれ帽子は叫んだ。
満足そうな笑顔でスリザリンのテーブルにつくドラコ。


「ほら、やっぱりな」
ロンは眉間に皺を寄せてドラコをチラリと見た。
「スリザリンはロクなやつがいないんだ、だからあいつもスリザリンさ」

ハッフルパフになってもいいから、せめてスリザリンにだけはなりたくない!
と先ほどからガタガタ震えるロンとそれをなだめるハリー。


「大丈夫よ、あなたの家は皆グリフィンドールなのでしょう?」
「でも、もしかしたら僕だけ…」

いくら励ましても聞かないロン。

「そんなに気に病んだら本当にスリザリンになっちゃうわよ?」
「そんなのやだ!僕、全然気にしてない!」

いきなりシャキッとしたロンにハリーとクスクス笑いをしていたら、
ハーマイオニーがくるり、と振り返った。

「ご、ごめん、静かにする…」
ハリーがもごもごいうと、ハーマイオニーはそれを無視し


「レアリー、あなた、呼ばれているわよ?」


と私に言ったのだった。
帽子を持った女教師は眉をピクリ、と動かす。

「行かなきゃ!」

走って帽子のところまで行く。



(まだレアリーって呼ばれても自分のことじゃないようで、だめだわ)

ふぅ、と軽くため息をついて椅子に座ると、帽子が私の頭をすっぽりと覆う。




"おや、君は、この帽子を被るのは2回目だね?"
(いいえ、初めてよ)
"いーーんや。わしは覚えておるぞ。確か君は8年前…"
(昔話は良いから、寮を決めてちょうだい)
"むむ…しかし…"
(私はレアリー・ベッカーで、この帽子を被るのは初めてよ、早く組み分けして)
"…君は今も"昔"も変わらないのぅ。"


帽子は小さく息をつき、「スリザリン!!!!!!!!」と叫んだのだった。



(これは厄介なことになるわね)

組み分けのことをすっかり忘れていた私は、
あわてて帽子の記憶に修正をかけ、ぴょんっと椅子から飛び降りると、スリザリンのテーブルに向かった。






「一緒だったわね」

ドラコが隣の席を空けておいてくれたので、私はそこに座る。

「だと思ってた。だから席を空けておいたんだ」

フン、と笑うドラコに私も頬笑む。
奥のグリフィンドールのテーブルではロンとハリーが嬉しそうに座っていた。


ぼけーっと見ていると、真正面のおかっぱの女の子が私を見ていることに気がつく。



「ハ、ハァイ」

見られていた理由もわからなかったため、私はその子に挨拶をする

「私、パンジー・パーキンソンよ」
「私はレアリー。レアリー・ベッカーよ」

ぎゅ、と握手をする。

「よろしくね」と言うとパンジーはキッと表情を強張らせて頬を染め、
そっぽを向き、小さく「ええ」と言ったのだった。





壇上ではダンブルドアが話をしている。

私はこの人が在学中から苦手だった。
出生が出生だけに、おそらく怪しまれていたのだろう。
何かあるごとにダンブルドアは私の瞳の中を探るように見たのだった。

(でも今回は、さすがのダンブルドアも気づいていないみたいね)

私はふふ、と頬笑み、食事にありついたのだった。













「レアリー!」

大広間をドラコとパンジーと出ると、そこにはハリーとロンがいた。

「あら、ハリー、ロン!」
「僕たち、寮が違ったね。僕らはグリフィンドールだったし、君は…その…スリザリンだった。」

"スリザリンに配属された可哀そうな子"を見つめるまなざしの二人。

「そうね、寮が違って残念だわ。でもこれからも仲良くしてね!」
「もちろんさ!グリフィンドールとスリザリンの合同授業もあるだろうしね。」

ハリーとロンはにっこりと笑っていたが、ドラコが近づいてきたことにその表情を強張らせた。

「ポッターにウィーズリー、レアリーに何か用かい?」
「僕たちはマルフォイじゃなくてレアリーと話してるんだけどな」

ハリーが嫌な顔をする。

「なんでほんとレアリーはスリザリンなんかになったんだろう…グリフィンドールだったらよかったのに」

(それは絶対に嫌だわ)


根っからのスリザリンっ子な私は、ロンの口から次々に出るスリザリン批判の言葉にイライラしだす。


(怒っちゃだめ、怒っちゃだめ、あとでいろいろ面倒になるから怒っちゃだめ…)


顔は笑顔でも、だんだん爪が手のひらに食い込む。
早く寮に戻らないとこれはまずいぞ、と思った時

「可哀そうなのはおまえたちだね、腐ったグリフィンドールで7年間だろ?」

ドラコがハリー達に噛みつく。

「レアリーはスリザリン生だ。グリフィンドールの腐ったお前たちとは大違いさ。」
「それに可哀そうなのはポッター、ウィーズリー、お前たちの方だぞ」

行くぞ、レアリー、と手を引っ掴まれ、地下にある寮へとずるずる引かれる。

「ごめんね」と口パクで2人に伝え、手を振ると
ものすごく哀れなものを見るような目で2人は手を振ったのだった。

(本当はドラコ万歳!な気持ちだったのだけどね)





「本当に可哀そうなレアリー」
「彼女、良い人なのに。グリフィンドールだったらどんなによかったか!」
「しかも、よりによってマルフォイなんかに目をつけられて」
「スリザリンでももっとマシなやつがいただろうにね」
「ハリー、スリザリンにマシなやつなんていないぜ?」

ロンとハリーは遠ざかっていくレアリーとドラコを見て残念そうな顔をしたのだった。






 







2010.1.4 shelly