4.  コツコツコツ、と音がして目が覚める。



目をぐるり、とまわして部屋の壁にかかっている時計を見ると、まだ5時過ぎ。
あと1時間近く眠れる、と思って再び瞼を閉じようとした時、コツコツという音がまたした。

気になって、ガウンをはおった私は窓に近づく。


「何かしら…あ、アダムじゃない!」

窓辺を叩いていたのはペットのカラスのアダムだった。
寒さにぶるぶると震えるアダムは、私の手に乗るなりぐったりとする。



「大丈夫?寒かったよね、ごめんね、何度も大変なお仕事頼んじゃって」

杖を軽く振り、暖炉に火をくべると、その近くにクッションを置き、アダムを寝かせる。

「すぐ温かくなるからね…今ご飯を…あら…?」

アダムのか細い足に、何かくるくるとした糸の様なものが巻きついている。
ごみかな、と思ってそれを取ってよく見ると、それは髪の毛だった。

「これ…もしかして…これ…この髪の毛…」

私はその場にへなへなと座り込む。
アダムは餌も食べ終え、体が温まって来たのか、ちょん、と私の膝に乗る。



「アダム、これ、あなた、何かのメッセージ?」

アダムはくちばしでちょんちょん、と膝をつつく。
"YES"を伝えようとしているのだ。

「本当にあなた、よくやったわ…ありがとう…」

アダムはもう一度膝をつつくと、バサッと音を立てて冬の朝の空に飛び立っていった。






私は身支度を済ませ、アダムが持ってきた"髪の毛"を握りしめ、階段を駆け降りる。


「あら、てっきり寝坊するものだと思ってたわ」

とびっくりしたようすで私を見るルシウスとナルシッサ。
二人がゆっくり朝のティータイムを楽しんでいるテーブルに近寄る。

「ねぇ、シシー、これ、見て」

袋から先ほどの髪の毛を取りだす。
それを見て、ルシウスとナルシッサは眉をひそめる

「これ、何?」
「髪の毛よ」

私の言葉にぎょっとして、触ろうとしていた手を引っ込めるナルシッサ。

「私、アダムに何度もお仕事を頼んでいたわ。アズカバンへ偵察に行って、って。」

ルシウスは手を組みなおして私を見る。

「今までは何もなかった。アダムが弱り切って、帰ってくるだけだったの。」

10年間そうだったけど、今回は違った、そう言うとナルシッサは私を見つめたまま近づいてくる。



「あの子、ついにベラに接触できたのよ!そしてこれは、ベラの生存の証拠だわ!」

歓喜余って泣きだす私を抱きかかえるナルシッサ。

「ベラが、生きてるわ、意識がちゃんとあるんだわ!」



"もし私に何かあったらカラスをよこしな"
"くるくるっと髪の毛を結びつけて"
"あんたの元に生きてる証を送り返してやるよ"
"ま、髪が生えてる限り、だけどね"

と言って笑ったベラはその数日後にアズカバンに収容されたのだ





泣きじゃくる私と、動揺するナルシッサをなだめるルシウスは
私たちの手からその髪の毛を奪ってゴミ箱に入れた。

「「あ!何するのよ!」」

見事に私とナルシッサの声が被る。

「あれは髪の毛であって、ベラトリックスではない」

ルシウスは諭すように囁く

「あんなもの持っててみろ、あれがあいつの形見になるぞ」


なんだかルシウスの言っていることは正しい気がして、
私とナルシッサは一息つく。


「あの方が直にお帰りになられる、その時まで待てばいいだけのことだ」
10年も待てたのだからあと少しくらい、待てるだろう?とほほ笑むルシウス

「そうね、それに、今日はパーティーだもの、気を取り直さなくては!」
「それじゃあたし、ドラコを起こしてくるね!」

ナルシッサもようやく立ち上がり、支度を始める。
私は階段を景気良く駆け上がり、ドラコの部屋に飛び込む





「ドラコーー!!朝よ!!!パーティーよ!!!!」
「ん…っうわ!なんでお前ここに!」
「失礼ね、起こしに来たのに」
「起きる、起きるからベッドから降りろ!」

なんだか気分がすごくよくて、私はベッドから飛び降りて窓を全開にする

「寒い!!!!おい!!!!!!!」
「本日快晴!一点の曇りもなし!!」
「いいかげんにしろ!!!!!!」



ニィッ、と笑った私に怒声を浴びせるドラコも、心なしか笑顔だった。
















マルフォイ家のパーティーとなると、ものすごーく偉い感じの"こちら側"の人間達がわんさか集まる。
その中には知り合いは何人もいるし、知らないけど私を知っている人も何人もいる。
もちろん表立って"印"を露見させるわけにもいかないので、皆女性はグローブ着用必須だが。

私もそんな女性のうちの一人で、コルセットで締め上げた体に深紅のドレスを着こみ、
髪も結い上げ、化粧を施し、ビロードのグローブを着用してパーティーを楽しんでいた。



ワイングラス片手にチーズをもりもり食べていると、ふと視界にドラコが入る。
形式ばった挨拶に辟易しているだろうに、それを押し隠してふるまうドラコ。
私はそっと彼に近づいて行った。

「よっ」
「わ!なんだか」
「あたしで悪かったわね」

あっちでご飯食べない?と誘うとドラコは「仕方ないから行ってやる」とついてくる



「ドラコ、あいさつ回りに飽きてるかしらーって思って」
「な、これも僕の務めだからな」
「つまんなそうな顔してたくせにー」
「そんなことない」

ドラコは私のグラスに赤ワインを注ぐ。

「ふふ、がんばっちゃって。良家のおぼっちゃまは大変ね〜」
「ばかにするな!」
「してないわよ。私も昔おんなじことやって暮らしてたから、懐かしいなぁって思って。」

ふふふ、と笑って注がれたばかりのワインを飲む。

「終始笑顔じゃなきゃいけないし、背中は伸ばし過ぎてつりそうになるし、楽しくないし最悪よね」
「お前の家もなのか」
「両親が亡くなってからはやっていないけど、生きていたころは月1でパーティーだったわ。マジ苦痛。」

ドラコはクスクスと笑う。

「パーティーの話か婚約の話かしかなかった記憶があるわね、当時まだ6歳とかだったのに。」
「婚約者か…」
「なぁに、ドラコもう婚約者決まってるの?ルシウスってば早いなぁ…」
「いや、決まってないけど、それ、選べないのかな」

妙に真剣な顔で考えるドラコ

「んー…ここん家の場合、良家の純血スリザリンの女の子だったら誰でもいいんじゃない?」
「そうか…」
「なになに?婚約したい女の子いるの??わたしが相談のってあげるよ???」
「別に!僕は好きなやつなんかいないし、パーティーに来ないような子を好きになったりだってしない!」
「ほほう…」
「それにのアドバイスはなんだか使えなさそうだからいい」
「いや、私現役時代はミス・スリザリンだったんだけどね」

ドラコがびっくりして「世も末だ!」とか言って騒いでいるけど
そのパーティーに来ない女の子がもしレアリーだとしたら…

(ワイン>ドラコ にした私 サイテーじゃん!)


ミス・スリザリンの審査基準を真剣に問いただすドラコに心の中で謝っておいた。
プレゼントをレアリー名義で送らなくてはね!




「ミス・スリザリンの選考基準に"人格"っていうのはないのか?」
「んー…あったと思うわ、たぶん、よく知らない」
「それじゃあその頃のスリザリン寮生は狂っていたにちがいない!」
「なによそれ、どういう意味?!」
「だってこんな女らしくない女、顔が良くたって、絶対僕は、」

(もごもご、と頬を染めて話すのをやめるから)
(なんだか気まずい空気が流れた)(なんで?)




 




2009.1.4 shelly