6. 
賢者の石が破壊された時、我が君の復活が遠退いたと死喰人皆が嘆いた。

だけど私は心の中で、我が君の復活が遠退いたことよりも、
復活が遠退いたことでベラトリックスの脱獄も遠退いたことに失望感を抱いた。

秘密の部屋が開かれたときもそうだった。
ルシウスが悔しがる隣で、私も悔しい気持ちだったけど
悔しさの対象が明らかに違ったのだ。
(それを口に出すといった野暮なことは、殺気立ったルシウスの隣ではしなかったが)


私はベラトリックスが忠誠を誓う人に忠誠を誓うだけだ。
幸いダンブルドアを好かない私は、ベラトリックスやルシウスがいる
あの方側にいて嫌なことは何一つない。だから印を刻んだ。ただそれだけなのだ。














「……ねぇ、この本使えるのかしら」

ベルトで縛り上げられたそれをまじまじと見つめてボソリと呟く。
ドラコの本を見てみても、しっかりとベルトが巻かれている。




今日は晴天。
二度目のホグワーツ三年目。
いい天気だわ、と空を見上げるとそこにはヒッポグリフ。



どうやらこの授業ではヒッポグリフを扱うらしい。
ハグリットらしいといえばらしい授業である。
しかしもちろんあちこちから非難の声があがっていた。
ドラコもそのうちの一人で、頻りに「父上が」とか「こんな授業」とか文句を言っていた。





ぼけーっとハリーが優雅に飛んで帰ってくるのを見ていたら、
隣にいるはずのブロンド坊ちゃんがいなくなっていた。

「うっわ…あのバカ…」

あれほど、あ れ ほ ど 挑発するなと言われていたのに!
騒ぎ出す生徒たちを尻目に、前足でドラコを蹴り飛ばそうとするヒッポグリフに私は杖を向けた。
バシンッッという音がして、ヒッポグリフの羽がバサバサと飛び散り、うめき声を上げた。


「ドラコ、大丈夫?」

わずかにかすったためローブが破れている

「痛…」

顔を歪めるドラコ。
本当は痛くないくせにさぁ!
(だって、血がほんのちょっぴり出ていただけだったんだもの!)










「ドラコは大袈裟ね」

保健室に着いてカーテンを閉めるなり元気になったドラコに言う。

「あいつ…父上に言い付けてやる……あ、それとレアリーさっきはありがとう。」
「ドラコが無事ならよかったけど」


にっこり笑うとドラコも微笑み返す。





私はこの瞬間がたまらなく好きだと思う。
自分がレアリーであってもであっても、変わらずにこの瞬間は好きなのだ。

普段あまり笑わないドラコの笑顔を見るとなんだか安心する。
ドラコだけは悪に染まらないでほしい、と心のどこかで思ってしまうのだ。
もっとも、あのルシウスの息子であるからして、それは避けられないのかもしれないけれど。

―――――ただ私は、ルシウスとドラコは何か決定的に違うものがある気がしてならないのだ。



昔、師匠であるベラトリックスに言われた、
"白は何色にでも染まってしまうから怖い"という言葉が頭をよぎった。










シリウス・ブラックがハリーとハーマイオニーによって逃亡できたというのは、
2人がこっそり私に列車に乗るところで言うまで知らなかった。




「全て片付いたら一緒に暮らす約束をしたんだ!」

期待たっぷりに話すハリーに、私は少しだけ嫉妬した。



自分の大切な人がアズカバンから運よく脱走できて、更には一緒に暮らす?
なんて幸せな話なんだろうか。
未だ独房に監禁されているベラを思うと胸が痛んだ。

「(ていうか、そういうこと安々と話しちゃだめよ、ハリー…)」







ハリーと話してる私を見て怪訝な顔をしたドラコが、
キッとハリーを一瞥し、行くぞと言わんばかりに腕を引っ張り列車に乗った。




ハリーは話の途中だったのに!と憤慨するがお構いなしだ。
わたしは「ごめん!」といつものように謝って力なく手を振り、ドラコを追う。



「あの二人、出来てるのか?」
「マルフォイがレアリーに纏わり付いているだけよ。
彼女はスリザリンだけど他の寮生からも人気があるわ。
あんなやつ相手にするわけないじゃない」

ハーマイオニーはフンッと言って列車に乗り込む。

「ま、向かうところ、敵だらけってわけさ、ハリー」

ロンはポンッとハリーの肩を叩き、ニヤニヤ笑う。
ハリーは「そんなんじゃないよ」と慌て、急いで列車に乗ったのだった。










「ドラコ、腕、痛いよ」

コンパートメントに入るまでドラコに強い力で掴まれていたため、血が巡らず腕は少し痺れていた


「ごめん」

慌てて手を離すドラコと腕をさする私


「あ、あの、レアリー」

沈黙を先に破るのはいつもドラコだ。

「何?」
「クィディッチの大会があるんだ。
父上のコネで一番良い席で見れるから、よかったら来ないか?」


目線を逸らしながら誘うドラコは、もう私の背を軽く抜かしていて、顔立ちもしっかりしていた。

アイスブルーの瞳が不安げに見つめる


「あら、本当に?ご一緒させてほしいわ!」

そう喜ぶと、ドラコも至極喜んだ様子だった。




キングズクロス駅に着くとそこにはルシウスがドラコの迎えに来ていた。


「父上、只今帰りました」

シャキッと胸を張って声変わりした声で言うドラコ。

「大きくなったな」

ルシウスもドラコの目に見える成長には驚いていた。


「あー、ミス・ベッカー?ドラコの腕の件は迷惑をかけましたな。」
「いえいえそんな!わたしはなにも!」
「そしてドラコから夏休みの話はお聞きになりましたかな?」
「クィディッチの試合の件でしたら、ぜひご一緒させていただきたいです」

ドラコの方を見て微笑むと、ドラコも微笑み返す。

「そうか、よかった。日時等は追って手紙を送ろう。」


わかりました、と返すとそれでは、とルシウスは車に乗り込む。


「じゃあドラコ、また試合でね」
「あぁ、楽しみにしてるからな!」


バイバイ、と車を見送る。
車が見えなくなると、私はトイレに駆け込み、
杖を自分に向けてからノクターン横丁の宿へと姿くらましをした。










宿に着くと、荷物の紐を解く暇もなく手紙が届いた。


「ったくちょっとは休ませて欲しいものだわ!」




パチンッと指を鳴らすとそこはマルフォイ家のソファの上。


ちょうどルシウスとドラコが帰ってきたところで、ナルシッサは私を見てびっくりしていた。


「シシーごめんね、時間がなくて家の中に姿現ししてしまったの」
「またあの人のことだから、無理な時間を書いた手紙でも送り付けたんでしょう?」
「そうなのよ。どうせ私をからかうつもりだったんだわ」


クスッと笑いながらルシウスをちらりと見るナルシッサ。
その奥ではルシウスが「早いな」とかなんとか言ってこちらをみて笑っていた。




 








2010.1.9 shelly