9.  「ドラコ、学校がんばってね」
「あぁ。今年の夏はずっとが家にいたからすごく楽しかったよ」

少し照れくさそうに笑うドラコに、私の心臓が音を立てる。
(でもまた、気付かないふり)

「まぁただ単に外に出れなかっただけだけどね〜」

と笑ってみせると、ドラコも笑って、私はナルシッサと手を振ってルシウスとドラコを送りだす。





「さて、そろそろ私も行かなきゃ!」
、あなた体調の方は大丈夫なの?」
「うん、大丈夫よ」

それじゃあ、また冬に、と残し、私はキングズクロス駅に姿現しをする。
そそくさとトイレに駆け込むと、いつものあの術をかける。

「ったぁ…」


ビキビキ、と体中に針で刺されるような痛みが走る。

(こりゃやばいわね、卒業までもつかしら…)

顔をぺしぺし、と叩いて、鏡の前で笑顔を作ってみる。
そして私は上出来!と呟いてコンパートメントへ向かったのだった。






「レアリー!」

ドラコがホームで私を見つける。

「あぁドラコ!この間はごめんなさい。」
「いや、僕の方こそすまない…大丈夫だったか?」
「えぇ、大丈夫よ、あなたのお父様に送っていただいたわ」




ドラコがレアリーはだ、と気付いた時、
私はどのくらいドラコを傷つけるんだろうか。
心配そうにするドラコを見ていると、そんなことがふと頭をよぎった。







夕食の時には三大魔法学校対抗試合とクィディッチの大会の出来事の話題で持ち切りだった。

誰が選手に選ばれるんだろう、とか
は生きてたんだってね!とか

(生きてちゃ悪いかしら?)

私となぜかドラコの機嫌は最高潮に悪かった。



私ははとにかくクラムを一目見ては騒ぎ立てる女子生徒がわずらわしくてしかたがなかった。
女子特有のキンキン声が死ぬほど苦手な私は、朝からそれを聞かされると気が滅入ってしまうのだ。


(脳みそ筋肉野郎の何がいいのかしらね!まったく)
(キンキン声はパンジーだけで十分!)



このイライラは話題がダンスパーティーにシフトするまで続いた。
しかし、やっとレアリーのイライラが収まったわね、と
ハーマイオニーが言った次の日にはまた私のイライラがつのりはじめていた。


「なぜみんな私がよく知らない相手なんかとダンスすると思うのかしら」


そんなに私は軽くないわ!と憤慨する。
確か本当に私が学生だった頃、卒業プロムでも同じことが起きたっけ。
あの頃は、ミス・スリザリンの実力よ!とかいって楽しんでいたけど
男の子からの誘いはもはや楽しむどころかイライラの元凶となっていた。

(あたしも年かしら?)





「まだプリプリ怒ってるのかい?レアリー」

ニヤリと笑いながら談話室のソファに座る私の隣に腰をかけるドラコ。

「だって足止めを食うのよ?もういい加減にして欲しいわ。」


うんざりよ、と言う私をドラコはまじまじと見つめる。


「なぁに?ドラコ」
「まだダンスパーティーの相手はいないのか??」
「えぇ」
「じゃあ僕のパートナーで決まりだな。生憎僕もまだパートナーが決まっていないんだ。」


まったくこいつは。
素直に誘えばいいのに。


「あら、そうなの?じゃあ喜んで」






「あらレアリー、今日はイライラしてないのね」
「えぇまぁね」
「ほら、早くしなさいよ、ハリー!今日はレアリーいらいらしていないみたいだから!」


中庭でぼけーっとする私のところに来たハーマイオニーとハリー。


「ハリー、どうかしたの?」
「あの、レアリー?もしよかったら、その、僕とダンスパーティーに…」

恥ずかしそうに言うハリー

「あぁハリーごめんなさい!私もうパートナーがいるのよ」
「あらあなた断り続けてたんじゃなかったの?」
「でもそろそろ決めないとって…」
「相手は誰なの?」

ハーマイオニーは興味津々!といった様子でジリジリと寄ってくる

「ごめんなさい、言えないのよ…当日を楽しみにしていてね!」

これにはハーマイオニーもハリーもがっかりしたようだ

「ハリーも相手が早く見つかるといいわね」
「もうロンと踊ろうかな…はは…」












「……はぁ」
「ドラコーどうしたの?ため息なんかあなたに似合わないわよ?今晩はダンスパーティーだというのに!」

キンキン声で話すのはパンジー・パーキンソン。

「あぁパーキンソン…君か…」

やだぁ、いつもパンジーで良いって言ってるじゃない!とパンジーがドラコに飛びつく。

「なぁ、パーキンソン」
「なぁに?」
「君は二人同時に誰かを好きになったことはあるか?」
「…は?」


ドラコは大きくため息をついて外を眺めた。
















待ち合わせの時間。
ドラコは大広間の前で待っていた。


「やぁマルフォイ、一人かい?」

ハリーとロンがからかう。

「バカを言うな、僕にパートナーがいないわけないだろう」
「じゃあなんで一人なんだい?」

ロンがニヤニヤしながら言う

「まさかあのパグ犬じゃないよな?」

ハリーもからかう。

「違うに決まってるだろ!僕のパートナーは――――――」




ハリーとロンが口を半開きにして奥の階段を見つめる。
と同時に一気に辺りがざわつく。
ドラコも階段の方に目をやり、ハッと息をのむ。


その少女のミルクティーのような色の髪の毛はくるくると巻かれ、高い位置で止めてあり、
頬の横に僅かに残されたおくれ毛は緩やかなウェーブを描いている。
真っ白な肌によく映える深紅の長いドレスの背中は大きく開き、細いリボンが網状になっている。
ベルベッドの黒いグローブは体の白さを際立たせていた。

そしてもちろん、その顔には化粧が施されている。






その少女はドラコの前で足を止める。

「ドラコ、今晩はよろしくね」



「知らなかった…マルフォイの相手が…レアリーだっただなんて…」

ロンはショックを受けたように呟く。


ドラコは頬を僅かに赤く染め、しかし自慢げにレアリーをエスコートし、大広間の中へ入っていった。

周りの人が振り向くたびドラコは優越感で満たされた。
レアリーも楽しそうにドラコを見つめて微笑む。


曲が流れ、二人は踊りはじめる。







しかし、ダンスは思うように進まなかった。

(相手がだったら――)

そう思ってしまう度にドラコはステップを踏み間違える。

(きっと僕らは冗談を言い合って)





「今日のドラコ、落ち着きがないわね」

(しっかりエスコートしろ、とか言われて)
(でも"あの時"みたいに優雅にターンするのだろうか)


そしてレアリーが実際にターンをする。
ドラコはそれを慌ててエスコートするものの、目を疑った。

(今、腰にバラの入れ墨が――)


まさかそんなわけあるまい、とドラコは瞬きを数回した。
だけどもしそうだとしたら――。







"君は二人同時に誰かを好きになったことはあるか?"
"…は?どうしたのドラコ?"
"僕は君に尋ねているんだ、パーキンソン"
"んーーそうねぇ、ないわ、でも…"
"でも?"
"同じ系統のモデルさんを同時にかっこいい!と思うことはあるわ"
"なんだ、そんなことは聞いていない"
"あら、結構関係あると思うわよ。2人が似てるってことはどちらかが本命ってことですもの"
"え?"
"だって、そうでしょう?似ているってことは、あなた、どちらかが好きなんだわ"
"どちらか…"




先ほどのパーキンソンとの会話を思い出すと、全てのつじつまが合う。

(だけどもしレアリーがだとしたらそれは誰にもバレてはいけないはずだ)




曲がバラードに変わる。
校長をちらりと見ると、特に警戒もしていないようだ。

「―――っちょ、ドラコ、近くない?てか、手!」

いきなり腰に添えられた手に、私は動揺を隠せない。

「この曲が終わったら、一旦出よう。」

耳元でそう囁かれ、私の心臓はドキン!と跳ね上がる。



ドラコの手で隠された腰のバラは、だんだんと色濃くなり始めていた。




(タイムリミットは)
(すぐそこなのだろう、か)





 










2010.1.5 shelly