停止ボタン 


「ポッター!!!!!」
「うるさいぞ、マルフォイ!!!!!」

入学してから今まで何度このやり取りを見たことだろうか。




ドラコは飽きもせず突っかかりに行くし、
ハリーとロンは真面目にそれに反論して、
ハーマイオニーがそこに首を突っ込んで、
ドラコが彼女に良い負かされて帰ってくる、
そしてそれを追いかけるクラッブとゴイル

(先が読める喧嘩はおもしろくないわね)



私はグリフィンドールのテーブルでパンをかじりながら毎朝それを眺める。



(それで次は、)

「おい!」


ほーらきた。
もはや先が読めすぎて飽きてくるわよこの喧嘩!




「はいはい。またハーマイオニーに言い負かされたってわけね。」


ごくり、とオレンジジュースでパンを流し込む。


「言い負かされたんじゃない!」
「はいはーーーい。」
「それに僕が言いたいのはそんなことじゃなくて」

ドラコが青筋を立てはじめる。

「なんで君は毎朝毎朝グリフィンドールのテーブルでご飯を食べるのか、ってことさ!」


お前はスリザリンだろ!と私の腕を掴みあげるドラコ。


「ちょ、ちょっと!あたしのじゃがいも落ちちゃったじゃない!」

口に運びかけていたじゃがいもは、みごとに地面を転がっていく

「マルフォイ、レディの食事を邪魔するもんじゃないわよ」
「またお前か、グレンジャー!」

ハーマイオニーがすました顔で私の隣に座る。

はご飯が食べたいそうよ。さっさとあなたもテーブルに戻って朝食をとったら?」
「あぁ、そのつもりさ。だからスリザリンのテーブルにこいつを連れ戻そうとしてるんだ!」

2個目にしてようやくじゃがいもを口に運べた私は
ほくほくと熱を口から逃がしながら2人を見つめる。

「なんで君は毎朝毎朝こんなやつらと食事するんだ?」


昔はスリザリンのテーブルで食べてたじゃないか!と鼻息を荒くするドラコ。


「君はスリザリン生なんだぞ!」
「別に、わたし、スリザリンが嫌いなわけじゃないわ」
「じゃあ、なんで!」

はぁと私はため息をかるくつき、指をさす。
気だるそうなわたしの表情を見て眉をピクリと動かしたドラコは、指の指す方を見やる。


「スリザリンのテーブルが何だ?」
「はぁ、違うわよ、そこに座ってる人」

ドラコはもう一度私の指先からその先を目でたどる。
それでもわからなかったのか、ドラコはイライラとした表情を私に向けた。

「あのパグ犬よ、わからないの?」
「パーキンソンか?あいつがどうした」
「私、あのキンキン声を朝っぱらから聞かされたら、1日授業を乗り切れないわ」

耳に響いてほんっとうに厄介よ、アレ!と叫ぶとハーマイオニーがクスリ、と笑った。


「だから、わたし、スリザリンのテーブルでは食べたくないのよ。わかった?」

もういちど軽く息をつき、フォークで今度はベーコンをつつく

「ほら、早く朝食とりにいけば?朝ご飯抜きで魔法薬学は吐き気を催すわよ」


ドラコはなんだか不抜けた顔で、スリザリンのテーブルに戻って行った。








「あなたも、素直じゃないわね」
「なんのこと?ハーマイオニー」
「マルフォイに直接言ってやればいいのに。"パーキンソンがあなたにべたべたしてるのを見たくないのよ!"ってね」
「別に、そんなんじゃあないわよ」

またまたぁ、と肘で小突いてくるハーマイオニーを放ってデザートに手をつける。

チラリ、とスリザリンの方を見やれば、ドラコの腕に絡まるパンジー。
こんなに離れていても耳元で話されてるのかってくらいに聞こえてくるキンキン声に、
わたしはいらいらとしながらデザートを頬張る。


「ほーら、またイライラしてるわよ?」
「うるさい」
「ほんとうはあなた、マルフォイのこと・・・」
「あーーーーおなかいっぱいだから先行くわね!」

足早に大広間を出ていく私を見て、ハーマイオニーはクスクス笑いを強め、デザートを食べる手を止めたのだった。











翌朝。


「ちょっ、なななななに!」
「朝食をとってるだけだが?」

私が座っているのは、いつも通りグリフィンドールのテーブルだ。
いつもは左隣にハーマイオニー、右隣りにはジニー、向かい側にハリーとロンなのに。
今日はなぜかジニーが窮屈そうにハリーとロンの間に座っていて

右隣りには、プラチナブロンドが輝いている。


「ドラコがグリフィンドールで食事だなんて、狂ったとしか思えないわ!!!!!!!!」

遠くでパンジーがキンキン声を発しているが、本当にそうだと思う。
あのドラコが、グリフィンドールで(しかもハリー達のすぐ近く!)、朝食だなんて!!!



「ここにいても聞こえるじゃないか、パーキンソンの声」
「えぇそうね、彼女の声はほんっっっとうによく通るみたいですから。」

向かい側を見れば、ドラコなんかいないかのように話す3人。
そして左隣りではニヤニヤしながら新聞に顔を近づけているハーマイオニー。


(このメンツがそろったら、絶対喧嘩が起きるはずなのに!)


私は頭がこんがらがりそうになり、とりあえずキッシュを切り分ける。
その間も「ドラコが!」とか「どうにかしなさいよ!」とかパンジーが吠え続ける。


「ドラコ!明日からスリザリンに戻るから、お願いだから、彼女を、止めてきて!!!」

私はしびれを切らし、ドラコの方に向き直る。
ドラコはニィ、と笑うと「パーキンソン!」と声を張り上げた。
パンジーは「ドラコォ!」と叫び、こちらを見た。



と、同時に私の視界は真っ暗になって、何かが口に触れたのだ。



あのキンキン声が前例ないくらいのボリュームになって、私は我に返る。

「ド、ラコ!!!!!!!!」
「約束は守れよ、

明日からはあっちだ、とスリザリンのテーブルを指さすドラコ。

「ちょ、約束ってゆうか!」
「行くぞ」



私はドラコに腕を掴まれて立ち上がらされる。
ガシャン、という音に反応して皆がこっちを見るので、私は頬を染めた。
助けてハーマイオニーを見ると、とびきりの笑顔で「素直になればいいだけよ」と言い放った。



「で、でも、ほら、やっぱ彼女の声、苦手だし、私、グリフィンドールでご飯食べたい…」


そうだそうだ!と再び騒ぎだすパンジー。




「そんなの」

ドラコがぐい、と私の顎をつかむ

「こうすればいいだけじゃないか」



さっきよりも深いキスを落とされて、私は目をつむった。







パンジーは声を無くし座り込み、ハーマイオニーたちが口笛を吹いてはやし立て始めると、グリフィンドール生もそれにのり、
グリフィンドールの席でキスを交わすスリザリン生2人を囲んでグリフィンドール生がはやし立てる、という異様な光景につつまれた。






わたしはあのキンキン声どころか、騒ぎたてる声も聞こえなくて、
ただ耳に残っていたのは、2回目のキスをされるまえに耳元でささやかれた


「ずっと昔から好きだ」という言葉の余韻だけだった。




これなら、パンジーがいくら騒いでもいいやとさえ思った私は
手をゆっくり彼の背中にまわしてみたのだった。





(だって、その声を止められることができるのは、)


停止ボタン。







(こんな状況でも)
(ドラコの心臓の音だけは)(聞こえるのが不思議だった)