両手両足、心臓音 


"コンコンコン"




「ねんむぅ・・・・」

窓を叩く音がして、ちくしょう、休みの日なのにふくろうが来た!なんて思いながら
しぶしぶガウンを羽織って窓を開けてやる。
バサバサッと音を立てて中に入ってきた一羽のふくろうはツンと澄ました表情で
ぽとりと一通の手紙を落として去って行った。

「あ、れ・・・」

"様"と丁寧な字で綴られた宛名を指でなぞる。
懐かしい字体に一気に私の頭は覚醒し、慌てて蝋印をぺりっと剥がす。
中から出て来た一枚の手紙を見るなり、私は大慌てでお風呂へと向かった。





「14時半にノクターン横町で?はぁ?なんでいきなりなのよ!ばーか!」

ガシガシと頭を洗いながら愚痴をこぼす。
2週間後って言ってなかったっけ?なんて言いながら急いで泡を流していく。
だけどシャワーのお湯と泡だらけの髪の毛のカーテンで外界と隔てられている表情は
小さな笑みを浮かべていた。

急いで入浴を済ませ、ほんのりと化粧をして、お気に入りのコロンをふりまく。











「あ、レギュ!」
さん!」


1年以上ぶりの再会は呆気ないもので、
熱い抱擁を交わすわけでも、涙を流すわけでもなかった。
(それがわたしたちなのだが)

「どこいきますか?」
「おなかすいたなー」
さんいっつもそれですよね」

ぼけーっと歩いて着いた先はノクターンのカフェ。
そこに入り浸って紅茶をすすりながら話をする。


ひとつ年下のレギュラスは、前に会った時と何ら変わりはなかったけれど
強いて言えば背が伸びていて、ハイヒールの私を軽々と抜いていた。
逆に私は、最後にレギュに会った時とはうってかわって、
前髪も流すのをやめて揃えたし、長さも腰まであったのに今では肩につくかつかないかだ。

レギュラスは可愛げもなく「前の方がよかった」だなんて言うから
私はこっそり心の中で、明日から前髪を流してみようかな、なんて思う。






「あれ?さんタバコやめたんじゃなかったんですか」
「やめられなかったです」
「自己規制のできない人ですね、相変わらず」
「うるさいなぁ、わかったわかった、やめればいいんでしょ」

がしがし、とタバコの火を消すと、レギュは少し笑って

「でも僕、タバコ吸う女の人すきですよ」

なんて言うもんだから、私はぽかんとしてしまう。
ドキッとしたのを見せたくなくて、もう一本とりだして火をつける。

「ふーん、じゃあいいや」なんて可愛げのない台詞を吐いてみながら煙をふかせば
レギュラスはかしこまった顔をして紅茶をすすった。








「レギュ、つまんなそうだね。疲れてる?」
「特に疲れていませんよ」
「そう?」

もう冷たくなった紅茶が、時間を感じさせる。

「せっかく来たんだし、誰かに会っていかなくていいの?セブとか、ルシウスとか・・・」
「いいんです」
「でもつぎいつこれるか分からないんでしょ?」

いいの?と再確認するも、彼は「いい」と言ってきかない。
向かい合って座った彼は腕組みをして深く座りなおす。
ぶらり、とのびた私の両足を挟むレギュラスの両足。そこから伝わる体温に、どきっとする。

「レ、レギュ?」

長い沈黙に耐えられなくなった私は彼の名前を呼んでみる。

さん」

今度は大きな両手で私の両手を包み込むもんだから、
私はもうドキドキを隠せなくなってしまい、足をもごもごと動かすが
彼の足がそれをゆるさなくて、私は動かすことをやめた。








「僕は、あなたに会いに来たんです」









銀製のスプーンが上品な音を立てて、ソーサーの上からかちゃりと滑り落ちた。
鼻の頭に汗をかいてしまいそうなくらい顔が熱くて、
それでも強情な私は


暇人なのね、とつぶやきうつむいた。








両手両足、心臓音





あなたの両手から、
あなたの両足から、
伝わる体温に
心がとくりと音を鳴らす



2010.3.11 shelly