忘却術と昼休み、チョコの味 


「ねぇ、ちょっとそこの猫かぶり優等生」
「誰が猫かぶりだって?」


分厚い本を読んでいたリドルをちょんちょん、とつつくと
気持ち悪いくらい完璧な作り笑顔で彼は私の首根っこをひっつかみ、
ポイッと芝生の上に投げ捨てる。
その拍子に私は背後の大木に頭をゴツン、とぶつけた





「痛いっ!」
「君、ここが中庭じゃなかったら、どうしてくれるつもり?」
「誰もいないんだからいいじゃないの」

それにバレやしないわよ、とおどけて見せると、リドルはため息をつく

「ま、私にはバレバレだったけどね、その演技!」
「殺されたい?」
「全然!生きたい!だから杖おろしてほんとうにおろして怖い怖い怖い」

後ろには木、目の前には杖を持ったリドル、杖はローブの中
これじゃかなうはずもなくひたすら謝り続けると、彼はゆっくり杖をおろした




「それで、何の用?」
「べつに、特に用事はないけれど」

リドルがいたから来ただけよ、と言う私にうんざりした顔をしてみせる

「用事がないなら来るな」
「酷い言いようね。昼休みに一人でこんなところにいるリドルを気づかってきてあげたっていうのに!」
「別に一人で良い」
「わたしは良くない」
「友達のいないかわいそうなやつだな、相変わらず」
「それはあんたも同じでしょ」

スカートの芝をはらって、リドルの隣に腰掛ける
リドルは再び本に目を落とし始める


「"闇の魔法用例と弊害"って…あなたまた気味悪い本読んでるのね…」
「君が机の裏側に張り付けて隠している"古代拷問全集"もなかなか気味が悪いと思うけどね」
「な、なんで知ってるのよ!!!!」
「さあ?」

リドルはニヤッと笑ってページをめくる



「そんな本読んでるようじゃ、友達はおろか恋人なんて一生できないだろうね、可哀そうに」
「ほっといてよ!別にいいの、つまんない友達や恋人なんていらないし」
「本当に可哀そうなセリフだな」
「だってのろまな平和ボケした人、私嫌いだもの」
「それは同感だね。でもそれは君と友達になろうとする人がいるのが前提だよ」
「別に、私、話す相手くらい、いるわ、リドルとか、リドルとか・・・あとは、リドルね」
「僕だけじゃないか」


本当に可哀そうなやつだな、と皮肉たっぷりの笑顔で言われて、私もカチンと来る。




「だって私はリドルがいればいいんだもの!」

「え?」






本のページをめくるのをやめてこちらを見上げたリドルの視線と私の視線がぶつかる。

血の気がサーーーッとものすごい勢いで引くのがわかった
自分が今勢いに任せて何を言ったのか理解できずにいたが、数秒後に今度は全血液が顔に回ったんじゃないかってくらい熱くなったので、私はそれを理解した。




(やばい、忘れてもらわないと・・・・・・・・あ、忘却術かければいいのか!)

咄嗟に杖を出してリドルに飛びかかると、彼はただ本をパタリと閉じただけだった。





「忘れて欲しいの?」
「あたりまえでしょ!口が滑っただけよ!」
「僕は、別に忘れる必要はないと思うけど」
「オブリビ・・・・・・は?」


リドルの上に馬乗りになって杖を向けてたまま硬直してしまう
この人、何言ってるのかしら?狂ったの?


「リドル狂った?」
「失礼なやつだな。それと重たいからいい加減僕の上から下りてもらえる?」
「重たくて悪うございましたね」

ドキドキして忘却呪文までかけようとした私はどこへやら、憎まれ口を叩く。

「夜な夜なチョコレートをベッドの中で隠れて頬張るのが悪い」
「だからなんでそこまで知ってるのよ!!この変態!!!!」


ドン、とリドルの肩を叩いて立ち上がると、おもむろにネクタイを引っ張られて私はドスンとリドルの膝の上に落ちる。


「ちょっと!首が締まるわ!」
「あぁそうだね、それに僕はまた重い思いをするわけだ」

離してよ!ともがく私のネクタイをもう一度グイッと引っ張り、
リドルはぺロリ、と私の唇を舐めた

「ちょ、え、リドル、え、何、すんの」
「ほら、、君、チョコの味がする。明日からダイエットだな」
「そうじゃなくて!何したかわかってんの?!」
「あぁそうだった、忘却呪文、かけた方がいいかな?」



勝ち誇った笑みのリドルと、顔が爆発しそうなくらい熱い私




「そんなもの、かけなくていいわよ!」



ふん、と小馬鹿にして鼻を鳴らしたリドルは
ほんの少しだけ目元が嬉しそうで
(私の思いこみかもしれないけれど)


この顔だけは絶対忘却呪文をかけられたとしても
忘れるもんか、いや、忘れないだろうと思った











忘却術と昼休み、


   チョコの味。





(あの頃の私たちは)
(まだ、若かったのかもしれない)



2010.1.27 sherry