おはようが言いたいだけ 


「ん〜〜〜〜〜〜〜〜〜」


闇陣営だとはいえ、朝日は入りこんでくるこの部屋で
私はいつもどおり、重たい瞼を押し上げた。



隣にいたはずの彼がいなくて、もう仕事かな、なんて思いながら
適当にその辺にあった彼の大きなワイシャツを一枚だけ羽織り、
お気に入りのルームスリッパを履いて、階段をゆっくりと降りた
重たい腰に響かないように、一段一段丁寧に降りる。



「「あ」」


ちょうど階段を降りたところで、ルシウスとはち合わせる


「おはようルシウス。」
「おはようございま…様!下!下履き忘れて…!!」
「ん?あぁ、面倒だから適当に羽織って降りてきちゃった」
「適当にって…!」

ルシウスは慌てて洋服をとりに行こうとする。

「あぁ私のことはいいの、ただ、ヴォルを知らないかと思って」
「我が君なら謁見室で…」
「そう、ありがとう」
「あ、様!今は入られないほうが!」

ルシウスの制止を半分聞き流しながら、ガチャリ、と謁見室のドアを開ける

「ヴォルいる?」
…?お前、なんだその格好は!」

彼は今、朝方任務を終えて帰ってきた死喰人の報告を聞いているところだった。

「あぁごめん、今起きたばっかりで…」
「アバダケダブラ!」
「ぎゃっ!!!」



顔を覆っていた手を恐る恐る下げる。
自分はワイシャツ一枚で屋敷を徘徊したがために殺されたのか、と思ったが
死んだのは私ではなく、報告をしに訪れていた2人の死喰人だった。



「うわ〜寝起き早々死体見ちゃったよ…」
「お前がそんな格好でのこのこ来るからだ」

彼はそう言って、自分のローブで私を包み、軽々抱きかかえる

「朝から死体が見たくなかったら、着替えてから降りてこい」
「わかったから降ろして!」
「降ろしたらこのままキッチン直行するだろ」
「う…」

図星をつかれた私は何も言えない。
ヴォルは私を抱えたまま、すたすたと階段を上る。
彼の言うことが正しいな、と反省した私は、彼の胸板に頬を寄せてみた。



部屋に着くなり、彼は私をベッドへ投げ飛ばした。



「ったぁ〜!!」


ギシ、とベッドのスプリングが鳴る。
起き上がろうとした私にズシリとのしかかるヴォル。

「俺様の前以外で足を出すな」
「ごめ…」

彼の細い指が私の太ももを撫でる。

「膝上は許さんぞ」
「ごめん…気をつける…けど…」
「けど、なんだ?」

太ももを触る手をいったん止めて私に聞き返す
上体を起こして彼と向き合うと私と彼の視線が交差して、私はやっぱり、彼が愛しいと思った

痩せているのにしっかりとした彼の胸板にぺったりと寄り添う

?」
「朝、起きた時には、隣にいてほしいの」

たとえば仕事で早起きしなきゃいけないときは、無理に私を起こしてもいいから

そう言って、ぎゅうっと彼にしがみつくと、温かい両腕が私を包み込んだ。


「早起きは、嫌いなんじゃなかったのか?」
「一人で起きるくらいならあなたと一緒に早く起きるわ」


抱きしめられたまま、私とヴォルデモートは、ごろり、と横になる。


「一人の朝は嫌い。一人の夜も嫌い。」







そう呟いた私に、彼は優しいキスを落とす。
わがままなやつだな、と笑いながら。







おはようが言いたいだけ






(それっきり)
(彼と迎える朝はこなかった)


2010.1.29 shelly