ダイヴ。
「おい、そろそろ時間だぞ」
「んー…わかってます」
「わかってるなら、動け!」
「んー…いやだ」
「いやだじゃない!」
「だって寒いよーーー」
談話室の暖炉の前のソファに陣取る私の前で、仁王立ちのドラコ。
わざわざ自室からずるずる引きずって持ってきたブランケットにくるまってゴロゴロしていると
「いい加減にしろよ!」とか怒鳴って、それを引きはがそうとする。
そんな2月の朝。
「ドラコ待ってやめて寒い寒い寒い剥がないで」
もこもこのブランケットを私から無理やり剥がそうとするドラコ。
「早くしないと汽車に遅れる!」
「大丈夫よ、あと5分くらい」
「いいや、ダメだね」
勢いよくブランケットを剥がれ、私はごろごろ、と音を立ててソファから落ちる。
落ちた拍子にゴツン、と頭をぶつけたもんだから、じんわり涙が沸いてくる。
「痛っ〜〜〜〜!!!!!!」
「起きない君が悪い。ほら、支度して!」
急かすドラコ。
あたりを見回すともう誰も談話室にはいなくて、私はしぶしぶ立ち上がろうとしたが、
おそらく最終組であろう女の子の塊が勢いよく談話室のドアを開けて外へ出て行ったため
冷たい空気が吹き込み、私はぶるぶる、と身ぶるいをして縮こまる。
「あ〜〜無理無理!無理!本日の寒さは異常!異常気象だわ!」
「何馬鹿なこと言ってるんだよ、本当に乗り遅れるぞ!」
待っててやるから、支度して来い、とドラコはソファに腰掛ける。
私は恨めしそうにドラコとドラコの持つもこもこのブランケットを見て、そろりと立ち上がった。
のろのろと女子寮に続く階段まで向かうと、足の裏にキン、と石段の寒さが伝わる。
「ぎゃ、冷たっ、む、無理!!!」
ダッと今来た道を戻り、そのままドラコの座るソファへダイブする私。
「お、お前なにやってるんだよ!早く支度してこい!」
「やだ無理寒いスリッパ消えた寒い寒い寒い」
もぞもぞ、とドラコの持つブランケットの中に足を突っ込む。
ほんのり温かいのが心地よくて、今度はすっぽりくるまってみる。
「う〜ん、極楽極楽!」
「はぁ…」
ドラコは腕時計を見てため息をつく。
時間は11時を過ぎたところ。汽車の出発時間だ。
「おい、。僕たちホグズミードに行けなかったぞ。」
どうしてくれるんだ、とか、ぶつぶつ文句を言うドラコをぼけーっと見ていると
突然話すのをやめるドラコ。
「ドラコ?どうし…」
「はっ…くしょん!!!!」
ずるずる、と鼻をすするドラコ。
「風邪?」
「違う」
「寒いんでしょ?」
「寒くない!」
寒くない!と言い張った次の瞬間にもう一発くしゃみをするドラコ。
「ほーら、寒いんじゃん」
そう言って、ブランケットを手繰り寄せてドラコにもかけてやる。
「あったかいでしょ、これ」
ぬくぬくとドラコに寄り添うと、彼は小さくため息をついてから肩に手をまわした。
パチパチと暖炉から小さな音がしている。
「ね、ドラコ。怒ってるでしょ?」
「別に」
「ホグズミード、ごめんね、楽しみにしてたよね」
「…わかってるんなら支度すればよかっただろ」
「うん、ごめん」
2週間ほど前から、あそこに行こうだとか、ここは絶対に行かないと、とか
まるで初めてホグズミードに行く子のように計画を立てていたのは知っていた。
(というより、いつも彼はデートとなると真剣なのだが)
「まぁ、でも…こうやってゆっくりするのもいいかもな」
いつもは人であふれかえっている談話室が、今日は誰もいない。
聞こえるのはパチパチと鳴る炎の音と、互いの鼓動の声だけ。
「でしょー?」
「少しは反省しろよ」
まったく、と小さく笑った彼は、私の頭を軽く小突いて、小さなキスをした。
「ちょっとー変なところ触らないでよねー」
「触ってない!!」
冗談交じりに言ってみたら、頬をピンク色に染めて私から離れ、猛烈に否定するドラコ。
「冗談だってば、かわいいなぁもう、このデコっぱちったら」
そう言って笑えば、むっとして「デコっぱちって言うな!」なんて言うもんだから
私はブランケットをぐい、と引き上げて、そのままドラコの胸に飛び込んだ。
「おい!いきなり飛びつくな!」
「ふふふ、照れないの!」
「照れてない!」
暖炉はさっきよりも少しだけ、大きな音を立てた。
ダイヴ。
(あったかくて広い貴方の胸の中へ!)
2010.2.1 shelly