Magic Time 


「ドラコ、雪!!!!!」


僕のベッドルームに飛び込んできたは、鼻を真っ赤にして叫んだ。
(おいおい、ここは男子寮だぞ?)


「勘弁してくれ、まだ5時じゃないか…」
「つまんないなーもう!ほら、ガウン羽織って!!」


女の子はなんでったってこんなに雪が好きなんだ?
そんなことをぶつぶつ言っていると、が僕のガウンを投げてよこしたのでしぶしぶそれを着る。
「はい、これ」なんて言いながらマフラーを僕の首にぐるぐる巻く。
苦しいな、とか言ってみたけど、本当はちょっとだけ嬉しい。







「寒っ」

中庭に、びゅう、と吹く風は白いサラサラした雪を舞いあげた。

「ドラコー、雪、綺麗じゃない?」




まだ朝の5時だ、誰もいない。太陽でさえまだ出ていない。
外灯がぼんやりと僕たちの顔を映し出す。

「"綺麗"より"寒い"が僕の中では勝ってるけどね」

ぶるぶる、と身ぶるいする僕に「風情がないわ!」とか叫んだ
それでも楽しそうに雪玉をごろごろと転がしていた。


小さかった雪玉は、しだいに大きくなり、は重そうにそれを転がす。
僕はベンチに座って身ぶるいをしながらそれを傍観する。




太陽が、少しずつ、顔を出し始めた。
暗かったあたりはほんのりと色を持ち始め、僕は白い息を吐きながら空を見上げる。

あぁ、ちょっとだけ、綺麗かも。

そんなことを思った矢先、はずんずんとこちらへ歩いてきて、僕の隣に腰をおろす。



「ゆきだるま、作らないのか?」
「なんだか飽きちゃった。雪玉1個転がしたら、もう満足だわ」

ふふふ、と笑うの鼻先は真っ赤だ。

「それよりドラコ、ちょっとこっちきて!」



僕の手を引く彼女は、雪を掻きわけてどんどん森の近くまで行く。
それについていくけれど、雪が腰のあたりまでくるもんだから、僕はの腕を掴んで止めた。


「これ以上行ったら動けなくなるぞ」
「もー。じゃあまぁここで良いかな」


は僕を見てにんまり笑うと、両手を大きく横に広げて、背中から雪の中へダイブした。


「おい!何やってるんだ!」
「ドラコも、隣、ね?」

雪の中に埋もれたはにっこりして、自分の右側の雪をぽんぽんと叩く。

「そんなの絶対に「ドラコ早く!」」

に急かされ、僕は半ば強引に雪の中に倒れこむ。




「上、見て」




言われたまま上を向くと、明るさが先ほどよりも増していた





「空、綺麗じゃない?」
「ほんとだ…」


空の青のグラデーションに混じる、太陽の赤。
マーブルと称してしまうには惜しい色彩が広がっている。



「ねぇ、少しは元気になった?」
「え?」
「ドラコ、最近元気がなかったから」


僕が返答しようと上体を起こすと、が「だめだよ」とそれを止めるもんだから、
僕はしかたなく雪の中にもう一度埋もれてみた。


「空の色がね、一瞬一瞬で変わっていくのよ、この時間は」





体がものすごく冷えているから、僕は早く雪の中から出たかったが
言われるままに空を見上げたら、何か心が軽くなった気がした。





「私、ドラコと一緒に冬を見たかったの。」





そう言った彼女の手を、僕は無意識に握っていた。








Magic Time




(これが彼女と過ごす、最後の冬)
(僕の腕には、真っ白な雪とは正反対の)
(真っ黒の、印。)




2010.2.2 shelly